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第1 交通事故の被害者の損害賠償請求

2 損賠賠償請求の相手方
(1) 運行供用者

(イ) 運行供用者の責任
「運行供用者」とは、自動車の運行を支配し、運行による利益を享受する者をいいます。すなわち、自動車を自ら運転し、自動車を直接支配する場合のみならず、他人に運転させて、他人の運転を通じて自動車を間接的に支配する場合を含みます。
そして、運行供用者は、その運行によって他人の生命または身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償しなければなりません(自動車損害賠償保障法3条)。これを運行供用者責任といいます。
ただし、(a)自己および運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、(b)被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと、ならびに、(c)自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったことを証明すれば、この責任を免れることができます。
これは、人身事故について、加害者は、上記(a)から(c)の全てを立証しない限り、事故によって被害者に生じた損害を賠償しなければならないとするもので、被害者救済の観点から、被害者の立証の負担を軽くしたものです。
(ロ) 運行供用者責任の要件
(a) 「運行」とは
自動車損害賠償保障法上、「運行」とは、「人または物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう」とされています(自動車損害賠償保障法2条2項)。
(b) 「当該装置」とは
「当該装置」は、1)走行装置としての原動機、2)ドア等の自動車を構成する各部分、3)特殊自動車の装置、例えば、クレーン、フォーク、ショベル、ミキサー等が含まれるとされています。
(c) 「用い方に従い用いる」とは
学説上争いはありますが、判例上、上記の「装置」の全部または一部をその目的に従って操作することをいうものとされています。したがって、原動機による移動走行のみならず、停車中のドアの開閉やクレーンの操作なども「用い方に従い用いる」にあたることとなります。
(d) 「運行によって人の生命または身体を害した」とは
学説上争いがありますが、上記のような「運行」による、「人の生命または身体」に対する被害の発生が通常あり得ないことではないという程度の因果関係(相当因果関係)があることをいうとされています(判例)。
(e) 「運行によって他人の生命または身体を害した」にあたるか否かの具体例
1) 積載していた荷物が、走行中に落下して、歩行者に命中した場合について、「運行によって他人の生命または身体を害した」にあたるとした裁判例があります。
2) エンジン故障のために、ロープで牽引されている貨物自動車の荷台から8歳の児童が飛び降りて死亡した事故について、「運行によって他人の生命または身体を害した」にあたるとした判例があります。
3) クレーンを操縦中に、クレーンが高圧電線に接触したため、作業員が感電死した事故について、「運行によって他人の生命または身体を害した」にあたるとした裁判例があります。
4) 貨物自動車が駐車した状態で、フォークリフトによる荷降ろし作業を開始したところ、走行中の自動車がフォークリフトのフォークに衝突した事故について、貨物自動車の「運行によって他人の生命または身体を害した」にあたらないとした判例があります。
(ハ) 「保有者」とは
「保有者」とは、「自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供するものをいう」とされています(自動車損害賠償保障法2条3項)。「使用する権利」とは、所有権、賃貸借、使用貸借その他いかなる法律関係であるかを問わず、法律上の正当な使用権をいいます。
保有者が運行供用者責任を負う場合、その保有者の損害は自動車損害賠償責任保険によって填補されます(自動車損害賠償保障法11条1項)。
(ニ) 運転助手
運転助手とは、自動車の助手席に同乗して、安全確認等により運転手の運転を補助する者をいいます。自動車損害賠償保障法上、このような者も「運転者」とされています(自動車損害賠償保障法2条4項)。運転助手は運行共用者にはあたりませんので、運行共用者責任(自動車損害賠償保障法3条)を負うことはありませんが、運転助手が安全確認を怠る等、事故の発生および被害の発生につき運転助手にも過失があれば、民法上の一般不法行為責任(民法709条)に基づく損害賠償責任を負うことになります。運転助手が一般不法行為責任を負うかどうかは、事案ごとに個別具体的事情によって判断されることになります。
自動車損害賠償責任保険は、保有者の運行共用者責任が発生した場合には、保有者のみならず、運転者にも適用されます(自動車損害賠償保障法11条1項)。したがって、運転助手が被害者に対して損害賠償を支払った限度で、保険会社に対して保険金の支払いを請求することができます(自動車損害賠償保障法15条)。
(ホ) 自動車損害賠償保障法3条の「他人」とは
自動車損害賠償保障法3条によれば、自分のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)は、その運行によって他人の生命または身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償しなければなりません。
そして、「他人」とは、運行共用者、運転者、運転補助者以外の者をいいます。これらの者は自ら事故を生じさせた者であるため、損害賠償請求権を取得できる立場にはないからです。したがって、運行共用者、運転者、運転補助者に該当しなければ、これらの者の同乗の家族、好意で(無償で)同乗させてもらった人、会社の使用人も「他人」といえることになります。
ところで、運行共用者が複数いる場合の運行共用者を「共同運行共用者」といいます。そうすると、この共同運行共用者は、当然に「他人」にはあたらないことになりそうです。しかし、共同運行共用者相互の間では、一方の共同運行共用者(A)が他の共同運行共用者(B)との関係では「他人」であるとして、Bに対して運行共用者責任を追及できないかという問題があります。以下のように3類型に分けて考察されますが、要は、共同運行共用者間で自動車の運行に対する支配が同等の場合には「他人」性を否定し、責任を追及する側よりも追及される側の方が自動車の運行に対する支配が直接的・顕在的・具体的である場合には「他人」性を肯定する傾向にあります。
(ヘ) 複数の運行供用者が同乗している場合(同乗型)
共同運行共用者が2人いる場合、2人ともが事故を起こした自動車に同乗している場合です。この場合に、一方(A)が他方(B)に対して運行共用者責任を追及できるかにつき、判例は、「BがAの指示を守らなかった等の特段の事情がある場合でない限り、BにとってAは他人とはいえない」として、否定しています。
(ト) 同乗していない運行供用者がいる場合(非同乗型)
共同運行共用者が2人いる場合に、1人が事故を起こした自動車に同乗していない場合です。例えば、会社所有の自動車を会社の取締役が、会社の従業員に運転させていたところ、その従業員が運転を誤って事故を起こし、その取締役が怪我をした場合、会社とその取締役が共同運行共用者になります。この場合に、取締役(A)が会社(B)に対して運行共用者責任を追及できるかにつき、判例は、「Bによる運行支配が間接的、潜在的、抽象的であるのに対し、Aによる運行支配ははるかに直接的、顕在的、具体的である」として、これを否定しています。
(チ) 同乗している運行供用者と同乗していない運行供用者が混在する場合(混在型)
共同運行共用者が3人いる場合に、そのうちの2人は事故を起こした自動車に同乗していますが、残りの1人は同乗していない場合です。例えば、Aの父であるBが所有する自動車を、AがCに運転させていたところ、Cが事故を起こしてAが怪我をした場合です。この場合、AのBに対する関係では上記(ヘ)と、AのCに対する関係では上記(ト)と同様の結論となります。