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第1 交通事故の被害者の損害賠償請求

3 損害賠償請求の内容
(1) 傷害事故の場合

(イ) 治療費・入院費
(a) 高額診療
怪我の治療のために支出した治療費や入院費は、必要かつ相当な範囲のものが賠償すべき損害とされます。社会一般の診療費水準に比べて著しく高額で、必要かつ相当な範囲を超える高額診療といわれる診療費については、損害保険会社の側は、通常の健康保険の2倍を超えると高額診療にあたるとして、賠償を否定する傾向にありますが、明確な基準は存在せず、裁判例の中には通常の健康保険の2.5倍や3倍のケースでも賠償責任を認めたものがあります。具体的には、約542万円の高額医療費の請求につき、健康保険基準額の2倍を超えることは許されないとして約362万円に限り賠償を認めた裁判例があります。
(b) 特別室使用料
入院中の特別室使用料は、医師の指示や特別の事情(怪我の部位・程度、被害者の社会的地位、普通室が満員等のためにやむを得ない場合)がある場合には、賠償すべき損害として認められます。植物状態となった被害者の場合ですが、約6年間の特別室の差額ベッド代1503万円余(日額7000円余)を認めた裁判例があります。
(c) 後遺症状固定後の治療費
後遺症状固定後の治療費は、原則として、賠償を否定されますが、症状の悪化を防ぐ必要があるなど後遺症状の固定を維持するために不可欠な場合、治療により苦痛が緩和される場合等、治療費の支出が必要かつ相当なときは賠償が認められます。頭部外傷Ⅲ型等による植物状態(1級3号)の被害者(16歳高校生)の場合ですが、症状固定後も個室の使用が必要であるとして、症状固定から退院までの405日間分の部屋代合計407万円余を認めた裁判例があります。
リハビリが必要な場合は、その費用の賠償も認められます。
(d) 入院中の食費
入院中の食費も、治療行為の一環として、賠償すべき損害にあたるとされています。
(e) 柔道整復、鍼灸、あん摩費等
柔道整復、鍼灸、あん摩、指圧、マッサージ等の東洋医学による施術費や治療器具購入費は、医師が治療上必要として指示した場合、または、医師の指示がなくても治療上有効な場合は、賠償が認められます。頚椎捻挫等の傷害を負った会社役員(14級)が症状固定日までの107日間に84日間受けた指圧の施術料につき、医師の同意を得ていたこと、医師の治療を受けた日数が13日間であること等の治療経過、内容等から、支出額95万円余のうち50%の限度で賠償を認めた裁判例があります。
(f) 温泉療養費
温泉療養費についても、医師が治療上必要として指示した場合、または、医師の指示がなくても治療上有効な場合は、賠償が認められます。医師の勧めがあった場合で、温泉療養費20万円のうち60%の賠償を認めた裁判例があります。
(g) 将来の治療費
将来治療費を支出することが確実な場合には、中間利息を控除した上で、現在の損害として賠償が認められます。例えば、植物状態となってしまい、回復の見込がない場合の平均余命までの期間の入院代等です。頸髄損傷等による精神神経障害(5級2号)、脊柱障害(6級5号、併合3級)の被害者(55歳男性)の場合で、将来にわたり日常生活動作を維持するため理学療法・薬物療法を要するとして、リハビリ治療費として平均年額21万円余、平均余命23年間分の賠償を認めた裁判例があります。
(h) 医師・看護師に対する謝礼
医師・看護師に対する謝礼は、症状・治療内容を考慮して、社会的に相当な範囲で賠償が認められています。脳挫傷等による植物状態(1級3号)の被害者(20歳大学生男性)につき、2つの病院の医師及び看護師らへの謝礼として合計50万円を支払った場合に、各病院につき10万円、合計20万円に限り、賠償を認めた裁判例があります。
(i) 入院雑費
入院中のおむつ、嗜好品、電話代・郵便代、新聞・雑誌代、テレビ代、家族の通院交通費等は、入院雑費として、1日あたり1400円~1600円の賠償が認められています。
(j) 将来の入院雑費
重度後遺症の場合のおむつ代等将来の雑費は、中間利息を控除した上で、現在の損害として賠償が認められます。後遺症等級1級の被害者(26歳)の場合について、紙おむつ代等の将来の衛生費を月額8万7000円、平均余命49年間分の合計1896万円余の賠償を認めた裁判例があります。
(ロ) 付添費用
(a) 入院付添費
医師の指示がある場合、または、医師の指示がなくても、被害者の怪我の部位、程度、年齢等から付添看護が必要な場合、付添費の賠償が認められます。また、看護師や家政婦等職業付添人を雇った場合は、支払った付添料の全額の賠償が認められます。他方、親子や配偶者等近親者が付き添っていた場合は、現実に付添費を支払っていなくても、また、現実に支払った付添費の額にかかわらず、1日あたり5500円~7000円の付添費の賠償が認められています。
付添人は、原則として1人しか認められませんが、被害者が重篤であるとか、幼児である等の場合に、職業付添人のほかに近親者の付添費の賠償請求を認めた裁判例があります。
(b) 通院付添費
通院の場合についても、医師の指示がある場合や、被害者が1人で通院することが困難な事情がある場合は、1日あたり3000円~4000円の通院付添費の賠償が認められています。
(ハ) 入通院のための交通費
被害者が入通院するに際して支出した交通費は、賠償すべき損害として認められます。ただし、怪我の部位・程度等からみて歩行が困難であるとか、公共交通機関がない等の事情によりタクシーやハイヤーを利用せざるを得ない場合を除いては、電車・バス等公共交通機関の料金が限度とされます。
また、自家用車を利用した場合は、ガソリン代、駐車場代、高速道路代等の実費を請求することができます。
(ニ) 近親者の看護・見舞いための交通費
近親者が付添看護のために支出した交通費は、怪我の程度、状況等から付添看護が必要と認められるときは、被害者本人の損害として賠償が認められることがありますが、被害者が入院する病院が近親者の住所地から遠隔地といえない場合は、入院雑費または付添費の中に含むとされる場合もあります。
この点に関し、夫の付添看護をした妻の東京・大阪間の電車運賃とタクシー代の賠償請求を認めた裁判例、母親が入院当初意識がなく症状も重篤であった場合に、アメリカ在住の娘が付添看護のためにアメリカ・日本間の往復航空運賃の賠償請求を認めた裁判例があります。
見舞いのための交通費は、原則として、賠償すべき損害とは認められませんが、被害者が重傷を負って入院し、被害者の両親、配偶者および子どもが病院に駆けつけた場合に、交通費の賠償を認めた裁判例があります。
(ホ) 休業損害
休業損害とは、自動車事故による怪我の治療のために休業した場合に、労働の対価としての収入を得ることができなかったことによる損害のことです。休業損害は、事故当時の収入に休業期間を乗じて算出します。これを数式化すると、「休業損害」=「1日当たりの収入」×「休業日数」となります。もっとも、事故後、時間の経過とともに症状が回復し、徐々に労働能力も回復することから、段階的に労働能力の喪失割合に応じて休業損害を算出する場合もあります。これによると、例えば、1日当たりの収入が1万円の被害者が、治癒までに6か月かかった場合であって、最初の2か月は100%、その後の2か月は60%、最後の2か月は20%の労働能力喪失割合とした場合、(1万円×2か月×30日)×(100%+60%+20%)=108万円となります。
(a) 被害者が給与所得者の場合
1日あたりの収入の算出にあたっては、少なくとも事故前3ヶ月の平均収入を用い、不確定要素が強い職種の場合はさらに長期間の平均収入とします。給与所得者の1日あたりの収入と休業日数は、勤務先が発行する休業損害証明書、源泉徴収票、診断書等によります。交通事故の休業が原因となって賞与が減額・不支給とされたり、昇給・昇格が遅れた場合には、それによる損害も賠償が認められます。また、休業期間中に、有給休暇を使用した場合も、賠償されるべき休業損害の額に影響はありません。
(b) 被害者が事業所得者の場合
事業所得者の1日当たりの収入は、前年度の所得税の確定申告書によりますが、業績に著しい変動がある場合は、数年間の実績の平均値による場合もあります。また、休業したことにより支出を免れた原材料費等の変動経費は休業損害から控除されますが、賃料・人件費等の固定経費については相当な範囲内で休業損害とされます。
(c) 被害者が専業主婦の場合
専業主婦であっても、家事労働にも財産的価値があることから、家事をすることができなかった期間について、賃金センサスにおける女子労働者の全年齢平均賃金または年齢別平均賃金を基準とした基礎収入により算出される休業損害が認められます。
また、パート等の収入がある主婦の場合は、現実の収入額が賃金センサスの女子労働者の平均賃金より低いときは平均賃金を、平均賃金より高いときは現実の収入額を基礎収入とした休業損害が認められます。
(d) 被害者が無職者・学生の場合
無職者・学生については、原則として、休業損害は認められません。ただし、就職が内定している場合、または、治療期間中に就職の可能性がある場合には、予定どおり就職した場合に得られるはずであった給料額、または、賃金センサスの平均賃金もしくはこれを下回る額を基礎収入として、休業損害が認められます。
なお、アルバイトをしていた場合には、現実に失ったアルバイト収入が休業損害となり、さらに、就職が遅れた場合には、得られるはずであった給料が休業損害となります。
(ヘ) 逸失利益
(a) 逸失利益とは
自動車事故で被害者が死亡または負傷した場合、被害者に事故がなければ将来得られたであろう利益を逸失利益といい、消極的損害の1項目です。傷害事故の場合は、被害者の労働能力が喪失や低下によって失われた、将来得られたであろう利益が逸失利益となります。傷害事故の場合の逸失利益は、後遺症が生じたときに特に深刻な問題となりますので、逸失利益の算出方法については、後遺症が生じた場合の逸失利益の箇所でまとめて述べます。
(b) 交通事故により社長が勤務できないことによる会社の逸失利益 
従業員のいない家族経営の会社の社長が自動車事故により、数か月間入院することとなり、その間会社の営業活動が停止したため、会社の収益が大幅に減少したというような場合、会社はこの損害を加害者に対して賠償請求することはできるか問題となります。
実務上は会社とその社長である被害者とが、実質的には同一体のものと認められる関係にあれば、社長である被害者が事故により入院し営業活動をできなかったことによる会社の損害につき会社の加害者に対する賠償請求が認められる可能性があります。
この点、会社が社長に支払った役員報酬につき、入院中は100%、退院後の336日間は25%の限度で、会社の損害として賠償を認めた裁判例があります。
(c) 自動車事故により従業員が勤務できないことによる会社の逸失利益
自動車事故により従業員が勤務できない場合に、会社の加害者に対する損害賠償請求が認められるためには、次のいずれかの場合であることが必要です。
1) 従業員が欠勤した場合に、会社に通常生じ得るような損失であるといえること
2) 加害者において、自動車事故により従業員が欠勤することによって、会社に損失が生じるという認識があったこと、または、少し注意すれば容易にそのような認識を有し得たこと
(ト) 慰謝料
(a) 慰謝料とは
他人の身体、生命を侵害した場合であって、損害賠償責任を負う者は、財産以外の精神的・肉体的な苦痛による損害についても賠償しなければならず(民法710条)、これを一般に慰謝料と呼んでいます。
(b) 慰謝料の算定方法
慰謝料は、事故の当事者間で話合いをして決められれば問題ありませんが、話合いで決まらなければ、最終的には、訴訟を提起した上で、裁判所に決めてもらう他ありません。そして、法律には慰謝料算定の要素や方式が定められておらず、以下のような事情を考慮して裁判所が裁量によって決めることになります。
被害者側の事情としては、1)被害者の負傷の部位・程度、2)後遺症の有無、3)被害者の年齢・性別・職業・既婚者であるか未婚者であるか、4)被害者の資産・収入・生活程度、5)被害者が一家の支柱であるか否か、などがあります。
他方、加害者側の事情としては、6)謝罪・弔慰をしたか、7)治療費・見舞金等を支払ったか、8)見舞いをしたか、9)通夜・葬儀等に参列したか、10)見舞金や香典を支払ったか、11) 6)から10)を行った時期が早いか遅いか、12)加害者が被害者に誠意のない言動をしたか、13)加害者が被害の拡大を防止するために救護活動・応急措置等真摯に努力したか、14)示談交渉過程における態度、などがあります。
上記のように、慰謝料は個別具体的な事情に応じて算定されるものであるため、事故ごとに異なることは当然といえますが、同じような事情のもとにおいては同じような結果がもたらされるべきであり、裁判所ごとに結果が異なるのでは公平とはいえません。そこで、後記のように、過去の裁判例等により定められた慰謝料の算定基準が公表されており、実務も概ねこの基準に沿っています。もっとも、これはあくまでもおおよその基準にすぎませんので、これを絶対的に従うべき基準と考えるのは妥当ではありません。
(c) 傷害慰謝料の場合
傷害慰謝料については、実務上、入通院慰謝料と後遺症慰謝料とに分けて算定基準が定められています。入通院慰謝料は、交通事故による傷害により、入院し、または通院したことによる慰謝料です。だいたいの基準が確立されており、入通院慰謝料は入院日数と通院日数から一定の基準額が導かれています。
各基準による入通院慰謝料は次のとおりです。
1) 弁護士会基準
弁護士会基準の入通院慰謝料は次の文字をクリックしてご覧下さい。
入通院慰謝料
2) 任意保険基準
任意保険の入通院慰謝料の算出基準は保険会社により異なり、しかも現在は公表されていません。しかし、次の3)の自賠責保険の算出方法を基準としつつ、受傷の部位や程度なども、多少加味されたものが多いようです。
3) 自賠責保険基準
日額4200円として、対象日数は被害者の傷害の態様、実治療日数その他を勘案して、治療期間の範囲内とされます。通常、総治療期間の範囲内で入院日数を含む実治療日数の2倍程度です。
たとえば、入院日数30日、通院期間60日(うち通院実日数25日)、総治療期間90日とした場合
実治療日数: 入院日数30日+通院実日数25日=55日
対象日数: 実治療日数55日×2=110日>総治療期間90日
傷害慰謝料: 4200円/日×90日=37万8000円
ちなみに、弁護士会基準によれば、このケースは1)の別表から98万円程度になります。
(d) 被害者の近親者の慰謝料
自動車事故の被害者が死亡した場合には、法律の条文上、被害者の父母、配偶者および子どもは、慰謝料を請求することができると規定されています(民法711条)。これに対して、被害者が負傷したにとどまる場合に、被害者の近親者が慰謝料を請求しうるかについては法律上規定がありません。この点につき、判例は、近親者が、被害者が死亡した場合と同程度の、あるいは、死亡した場合に比べて著しく劣らない程度の精神的苦痛を受けたときに限り、近親者固有の慰謝料を請求できるとしています。
「死亡した場合と同程度、あるいは、それと比べて著しく劣らない程度」とはどのような場合が「死亡した場合と同程度、あるいは、それと比べて著しく劣らない程度」にあたるかにつき、次のような裁判例があります。
1) 14歳男児が重度意識障害、四肢完全麻痺となり、植物状態となった場合につき、両親に固有の慰謝料として1人あたり300万円、合計600万円の賠償が認められた裁判例
2) 36歳男性が外傷性脊髄麻痺、頭部外傷後遺症により両下肢完全麻痺、右上肢各関節の運動障害、直腸機能等により後遺症等級1級とされた場合につき、妻に固有の慰謝料として300万円、子どもに固有の慰謝料として150万円の賠償が認められた裁判例
なお、近親者の慰謝料額は、裁判実務上、被害者本人の慰謝料のおよそ20%~30%とされることが多いようです。