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第1 交通事故の被害者の損害賠償請求
3 損害賠償請求の内容
(2) 後遺症が生じた場合

(ハ)

後遺症逸失利益

逸失利益とは、後遺症を負ったことにより、交通事故前のように就労することができなくなり、よって収入が減少するために失われる利益を意味します。
被害者が治療を継続しても症状の改善を望めない状態(症状固定)になった場合、損保料率算出機構により等級認定が行われ、その等級認定をもとに逸失利益は算定されます。算定式は、原則として、次のようになります。
(基礎年収)×(認定された等級に対応する労働能力喪失率)×(労働能力喪失期間・就労可能年数に対応するライプニッツ係数)
例えば、年収400万円の30歳の男性が4級の後遺症を負った場合、労働能力喪失期間・就労可能年数は37年とされ、これに対応するライプニッツ係数は16.711であり、労働能力喪失率は92%とされますので、逸失利益の計算は次のようになります。
400万円×92%×16.711=6149万6480円
逸失利益の損害賠償請求が認められる場合、原則として、加害者は全額を一括で(一時金として)支払わなければなりません。したがって、症状固定時から就労可能年限までの中間利息を、損害賠償額から控除する必要があります。そこで、将来収入を得るはずであった時までの年5%の利息を複利で差し引くために、特段の事情がない限り、年5%の割合による「ライプニッツ係数」を用います。(下記のライプニッツ係数をご参照下さい)。
年齢ごとのライプニッツ係数は、次の文字をクリックしてご覧下さい。
ライプニッツ係数
(a) 基礎年収
上記の逸失利益の算定式によると、基礎年収が損害賠償の額に大きく影響していることが分かりますが、被害者の基礎年収のとらえ方については、次のような扱いが実務上は一般的です。
1) 給与所得者
原則として事故前の年収を基礎年収とします。証明資料としては、通常、事故前の源泉徴収票が用いられます。もっとも、現実の収入が統計値である賃金センサス(下述)の平均賃金以下の場合であっても、平均賃金程度の収入が得られる蓋然性があれば、平均賃金を基礎年収とすることもあります。また、30歳未満の若年労働者においては、全年齢平均の賃金センサスを用いることを原則としています。これは、学生の逸失利益算定にあたっては、賃金センサスの平均賃金を用いていることとの均衡を図るためです。
2) 主婦
専業主婦については、他から収入を得ていないので、年収を観念しにくいという問題があります。しかし、家事労働も財産的な評価をすることは可能です。そこで賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計の女子労働者全年齢平均の賃金を基礎年収とする扱いになっています。
なお、有職の主婦の場合には、実収入が上記の平均賃金以上のときは、実収入に従い、それ以下のときは平均賃金に従うこととされています。つまり、パート収入がある兼業主婦であっても、通常そのパート収入部分を基礎年収に加える取り扱いはなされません。
3) 会社役員
役員報酬のうち、労務提供の対価部分と利益配当の部分を分けて、労務提供の対価部分のみを基礎年収とします。
4) 個人事業者
原則として事故前年の確定申告額を基礎年収とします。しばしば問題になるのが、税金対策のため過少申告していて、現実の収入はそれ以上であるという主張です。しかし、通常この主張は認められません。
一方、確定申告をしていないときでも、相当の収入があったと認められるときには、賃金センサスの平均賃金を基礎とすることが認められています。
5) 失業者
労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性があるときは、原則として失業以前の収入を参考として基礎年収が決められます。ただし、失業以前の収入が賃金センサスの平均賃金以下であっても、平均賃金を得られる蓋然性があれば、男女別の平均賃金によることとなります。
6) 幼児、生徒、学生
原則として、賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計の男女別労働者全年齢平均の賃金を基礎年収とします。なお、女子の場合は、男女別ではなく、全労働者平均賃金で計算すべきという判例がありますので、その判例に沿って請求すべきです。
7) 高齢者
就労の蓋然性があれば、原則として、賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計の男女別労働者全年齢平均の賃金を基礎年収とします。
賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計の男女別労働者年齢平均の賃金については、次の文字をクリックしてご覧下さい。
賃金センサス平成18年第1巻第1表(抜粋)・年収額付
(b) 労働能力喪失率
労働能力喪失率は、基本的に、後遺症別等級表記載の労働能力喪失率に従って決められます。
たとえば、14級の後遺症では5%の労働能力が喪失したものとされます。また、7級の後遺症では56%の労働能力が喪失したものとされます。3級以上の後遺症では100%の労働能力喪失、つまり、労働能力が完全に失われたものとされます。
もっとも、上記基準は、確定的なものではなく、具体的な状況に応じてその労働能力喪失率が上下することがあります。たとえば、芸術家や特殊技術のある職人の手指に後遺症が残ってしまった場合、後遺症の等級以上に労働能力の喪失率が高いと判断される場合があるということです。
自賠責保険では「非該当」とされたものの、裁判で、後遺症逸失利益が認められた例として、被害者(症状固定時で31歳の女性)に残存した両上下肢の運動障害、立位・歩行不能などの症状につき、頸髄損傷ではないものの事故以前にはその様な症状が全くなかったことから、交通事故に起因して発症したものと認めて、5級2号に該当するとした裁判例があります。また、裁判で、自賠責保険における等級認定よりも上位の等級が認定された例として、自賠責保険で7級に該当するとされていたのに対し、鑑定嘱託の医師が左片不全麻痺(7級4号)、症候性てんかん、知能低下及び精神障害(5級2号)と判断していること等を考慮し、結論的に4級に該当するとして、92%の労働能力喪失を認めた裁判例があります。
(c) 労働能力喪失期間
労働能力喪失期間は、原則として症状固定した時から67歳までの期間とされています。ただし、未だ就労していない未成年者や、高齢者については修正が加えられています。
67歳までの年数が平均余命の2分の1よりも短くなる場合は、原則として平均余命の2分の1が労働能力喪失期間となります。
しかし、神経障害の後遺症については、67歳までの労働能力喪失期間が認められることは希です。たとえば、むち打ち症の場合は、後遺症等級12級で5年~10年、14級で5年以下が目安となります。むち打ち症などの神経障害は、この程度の時が経過すれば治癒していくことが一般的であるという医学的判断に基づいているからです。