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第1 交通事故の被害者の損害賠償請求
4 損害賠償額が減額される場合
(2) 
過失相殺

(イ) 過失相殺とは
被害者に過失(落ち度・不注意)があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができるとされています(過失相殺。民法722条2項)。
あくまでも「できる」とされているに過ぎないため、過失相殺をするかどうかは裁判所が自由に判断します。
被害者に生じた損害の何割を加害者に賠償させるか(過失相殺の割合)は、まさにケースバイケースですので、具体的な事案における具体的な過失相殺割合は、弁護士に相談の上、最終的には裁判で決着をつけることになりますが、裁判実務に基づいて、自動車事故の類型毎に過失相殺割合をパターン化した『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準』(判例タイムズ社東京地裁民事交通訴訟研究会編)が作成され、実務上の参考にされています。
過失相殺割合は、事故時の客観的状況(車両の走行速度、当事者の位置関係等)に基づいて判断されますが、この過失相殺割合によっては損害賠償額が大きく減殺されてしまうこともありうるため、被害者としては自分の過失相殺割合を過大に認定されることのないよう、事故時の客観的状況を写真・目撃証人等の形で証拠として保全しておくことが極めて重要になります。交通事故が発生すれば、警察官が速やかに実況見分を行い、実況見分調書を作成するのが通常です。そして、これは事故時の客観的状況を立証する上で、重要な証拠となりますので、これを入手することが必要になります。
以下、具体的事例ごとに過失相殺について検討します。
(ロ) 幼児の飛び出しと過失相殺
(a) 過失相殺が認められるためには、被害者に事理を弁識することのできる知能(事理弁識能力)が必要とされています。そして、この事理弁識能力があるかどうかの判断は、被害者ごとに異なるものですので、年齢だけで判断されるものではありませんが、5歳3か月、5歳9か月の小児に事理弁識能力を認めた裁判例があります。しかし、2、3歳の幼児が被害者である場合には、事理弁識能力がないものとして、その幼児自身の過失については、過失相殺が認められないことになるでしょう。
(b) 被害者にも何らかの過失がある場合に、その被害者が2、3歳の幼児であるからといって、損害賠償額が減額される可能性が一切ないわけではありません。
判例は、1)民法722条2項の「被害者の過失」とは、単に被害者本人の過失のみでなく、広く被害者側の過失をも含み、2)被害者本人が幼児である場合の被害者側の過失とは、父母ないしは父母の被用者である家事使用人などのように被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失をいうとしています。
したがって、自動車事故につき、被害者である幼児の父母や家事使用人などに過失があった場合には、過失相殺が認められ、損害賠償額が減額される可能性があります。
(ハ) 「自動車」対「歩行者」の事故の過失割合
(a) 横断歩道上の事故
車は横断歩道を通過する際には、横断歩道上を横断しようとする歩行者がいないことが明らかな場合を除き、横断歩道の直前で停止することができるような速度で進行しなければならず、横断しようとする歩行者がいるときは、横断歩道の直前で一時停止し、歩行者の進行を妨げないようにしなければなりません(道路交通法38条)。
したがって、横断歩道上の事故の場合には、原則として、歩行者に過失はないものとされ、過失相殺はなされません。
ただし、信号機が設置され、歩行者が赤信号を無視して横断歩道を横断していた場合には、歩行者には70%程度の過失があるものとされます。
(b) 横断歩道外の事故
1) 横断歩道が付近にある場合には、歩行者は横断歩道を横断しなければなりません(道路交通法12条)。したがって、横断歩道が付近にあるにもかかわらず、横断歩道外を横断した歩行者には、30%程度の過失があるとされます。
2) また、横断が禁止されている道路を横断した場合には、歩行者に50%程度の過失があるものとされます。ただし、フェンス等により物理的に横断を禁止するための設備が施されていない場所については30%程度の過失とされます。
(c) 横断歩行者以外の事故
1) 歩道と車道の区別がある場所では、歩道上の車の通行は禁止されているため、歩道上の歩行者には原則として過失は認められません。
2) この場合、逆に、車道上を歩行することは原則として認められないため、車道を歩行している歩行者には、側端の場合で20%、それ以外の場合で30%程度の過失が認められます。
3) 歩道と車道の区別がない場所では、歩行者は側端を歩行している限り、原則として過失は認められません。
4) 路上で寝ていたり、遊んでいたりした場合には、20%ないし30%程度の過失が認められます。
(d) 修正要素
1) 上記(a)から(c)は、過失相殺の一般的基準ですので、一応の目安にはなりますが、個別具体的な事情によって修正されることは当然です。
2) 車の直前直後を歩行していた場合、交通量の多い幹線道路の場合等の事情があれば、歩行者により大きな過失が認められることになります。
3) 他方、運転者にとり危険の予測ができる児童や老人等の場合、住宅街や商店街のように歩行者の存在が容易に予測できる場合等の事情は、運転者により大きな過失を認める事情となります。
(ニ) 「自動車」同士の事故の過失割合
(a) 交差点での直進車同士の事故
1) 青信号に従って直進する車両と、赤信号を無視して直進した車両との過失割合は、原則として、0対100とされます。ただし、青信号に従っていても、通常の速度と前方注視により通常の注意をしていれば衝突を回避できた場合には、青信号に従って直進した車両にも過失を認めることができる場合があります。
2) 黄信号時に直進した車両と、赤信号を無視して直進した車両との過失割合は、20対80とされています。
3) 信号機が設置されておらず、交通整理が行われていない交差点での事故の場合、イ.道路の幅員が同じで、見通しが悪い交差点の場合、双方に徐行義務が課せられますから、徐行義務をどちらが果たしたかにより過失割合は決まります。ロ.交差点への進入速度も幅員も同じで、同時に進入した場合、左方優先の原則により、左方車と右方車の過失割合は40対60とされます。ハ.一方に一時停止の標識がある場合は、原則として、一時停止義務違反車と他方の車両とでは80対20の過失割合とされます。
4) 優先道路または一方が明らかに広い道路との交差点の場合、優先道路または広い道路の車両が優先しますから、優先道路または広路を進行する車両の過失割合は10%または20%とされます。
(b) 右折車と直進車の事故
右折車は直進車の進行を妨げてはならないとされていることから(道路交通法37条)、右折車と直進車の過失割合は30対70とされています。
(c) 対向車同士の事故
センターラインを越えたことによる対向車同士の衝突事故の場合、センターラインを越えた車両が100%の責任を負い、過失相殺はなされないのが原則です。
ただし、イ.道路の左側部分の幅員が車両の通行に不十分なとき、ロ.道路の損壊、道路工事その他の障害のために左側部分を通行することができないとき、ハ.左側部分の幅員が6メートルに満たない道路において、他の車両を追い越すとき等の場合は、道路の右側部分にはみ出して(センターラインを越えて)通行することができるとされていることから(道路交通法17条5項)、左側部分を通行する車両にも一定の過失を認めることができる場合もあるでしょう。
(d) 同一方向進行車両同士の事故
1) 追突事故の場合、原則として、追突車両に100%の過失が認められます。
2) 追越禁止場所での事故では、原則として、追越車両に100%の過失が認められます。追越禁止場所でなくても、追越車両に10%から20%程度の過失が認められています。
(ホ) 「単車」対「四輪自動車」の事故の過失割合
(a) 単車修正
道路交通法上、運転者に課せられる義務は、単車の場合と四輪自動車の場合とで基本的に異なるところはありませんが、四輪自動車同士の事故の場合に比べて、通常、単車の過失は10%から20%程度低いものとされています。
(b) 二段階右折違反による事故
原動機付自転車が二段階右折をしなければならない交差点で、二段階右折をしなかったために、直進してきた自動車と衝突した場合、原動機付自転車の過失は否定できませんが、四輪自動車同士の交差点右折時の事故の場合に比べて、原動機付自転車の過失は5%増程度とされているようです。
(c) 巻込み事故
交差点で四輪自動車が左折する際に、合図をしなかったり、左後方を確認しなかったために、直進する単車を巻き込む事故の場合、四輪自動車の過失は大きいと言わざるを得ません。この場合で、左折する四輪自動車が先行している場合には、漫然と直進しようとした単車側にも過失があることは否定できないことから、四輪自動車の過失は80%程度とされています。他方、単車が先行している場合に、四輪自動車が単車を追い抜きざまに左折したために巻込み事故が起きた場合には、四輪自動車の過失は90%程度となります。
(d) 渋滞中の車両間での出合い頭事故
渋滞中の車両の間を右折または横断しようとする四輪自動車と、渋滞中の車両の左側を直進する単車との事故では、四輪自動車の過失は70%程度とされます。
(ヘ) 「自動車」対「自転車」の事故の過失割合
(a) 自動車に比べて自転車の方が明らかに危険性が低いことから、自転車と自動車の過失割合は、歩行者と自動車の場合に準じて考えることが基本的に妥当です。
(b) 赤信号を無視した自転車の過失割合は、歩行者の場合(70%)に準じて80%程度とされています。
(c) 交差点で、直進する自転車に対し、右折する四輪自動車が衝突した場合の自転車の過失は原則として10%程度とされています。
しかし、自転車は他の車両から発見しにくい場合があり、また、自動車ほどではなくても走行速度が速く、走行方法によっては事故を引き起こす危険性があります。したがって、右折しようとする四輪自動車の右側後方から自転車が直進したため、衝突したという場合のように、他の車両からの発見が困難な状況で危険な走行をした場合、自転車の過失は10%程度加算されます。
(d) 自転車の2人乗りをしている際に事故が起きた場合、自転車の過失は10%程度加算されます。
(e) 自転車は右折する場合は、交差点の中心部分を通過することが禁止されており、予め道路の左側端に寄って、交差点の側端に沿って徐行しなければならないものとされています。したがって、交差点での対抗直進車との事故で、自転車が交差点の中心部分を通過しようとしていた場合には、自転車の過失は、信号機がある場合で50%、信号機のない場合で30%とされています。
(ト) シートベルトやヘルメット不着用の場合の過失割合
(a) シートベルト不装着と過失相殺
1) シートベルトを装着していなかったことは事故の発生自体とは関係がないといえますが、シートベルトを装着していれば被害は発生しなくて済んだ、あるいは、被害が拡大しなくて済んだといえる場合には、被害者にも過失があるとして、過失相殺が認められるのが一般的です。
2) イ.シートベルトを装着していなかった被害者が後遺症等級7級になった事案で、被害者の酒気帯びと合わせて20%の過失が認められた裁判例、ロ.シートベルトを装着していてもほとんどその効果はなかったと認められるものの、その負傷部位や程度からしてシートベルトを装着していればもっと軽い怪我で済んだ可能性が高いとして、被害者に10%の過失が認められた裁判例等があります。
(b) ヘルメット不装着と過失相殺
1) ヘルメットを装着していれば被害は発生しなくて済んだ、あるいは、被害が拡大しなくて済んだといえる場合には、シートベルトの場合と同様、被害者にも過失があるとして、過失相殺が認められるのが一般的です。
2) イ.ヘルメットを装着していなかった被害者が交差点での事故で死亡した事案で、被害者に10%の過失を認めた裁判例、ロ.事故の発生自体について特段の過失のない被害者がヘルメットを装着しておらず、死亡した事案につき、被害者に5%の過失を認定した裁判例、ハ.速度違反とヘルメット不装着の被害者につき30%の過失を認めた裁判例、ニ.ヘルメット不装着で原動機付自転車に2人乗りしていた同乗者が死亡した事案で、同乗者に10%の過失を認めた裁判例等があります。
一方、貨物自動車と衝突したバイクの同乗者が内臓破裂で死亡した事案で、同乗者がヘルメットを装着していなかったことは被害の発生・拡大とは関係がないとして、過失相殺を否定した裁判例があります。
(チ) 共同不法行為と過失相殺
共同不法行為が成立する場合の過失相殺の方法につき、判例は、「複数の加害者の過失および被害者の過失が競合する一つの交通事故において、その交通事故の原因となったすべての過失の割合(絶対的過失割合)を認定することができるときには、被害者の絶対的過失割合により過失相殺をした損害賠償額について、加害者らは連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負う」としました。
したがって、例えば、加害者甲、加害者乙、被害者丙の絶対的過失割合が5割、4割、1割で、丙に生じた損害額が1000万円の場合、1000万円×(10割-1割)=900万円について、甲と乙は連帯して賠償責任を負うことになります。
(リ) 同乗者と過失相殺
(a) 民法722条2項は、被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、加害者の被害者に対する損害賠償額を定めることができるとしています。これは文字どおりに捉えると、被害者本人に過失がなければならないかのように読めます。
しかし、判例は、(1)民法722条2項の「被害者の過失」とは、単に被害者本人の過失のみでなく、広く被害者側の過失をも含み、(2)被害者本人が幼児である場合の被害者側の過失とは、父母ないしは父母の被用者である家事使用人などのように被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失をいうとしています。
さらに判例は、被害者本人が幼児である場合に限らず、被害者本人と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にあれば「被害者側」に含むとしています。
したがって、双方の運転者に落ち度(過失)がある自動車同士の衝突事故により、一方の車両の同乗者が負傷した場合に、負傷した同乗者に対する他方の運転者の損害賠償額を算定するに際して、同乗者と同乗者の乗っていた自動車の運転者との間に身分上ないし生活関係上一体をなすとみられるような関係がある場合には、同乗者の乗っていた自動車の運転者の過失を斟酌して、損害賠償額を減額することができます。
(b) 身分上の一体関係
1) 夫婦の婚姻関係がすでに破綻に瀕しているなどの特段の事情がない限り、夫婦につき身分上の一体性を認めた事例
2) 内縁の夫婦につき身分上の一体性を認めた事例
3) 内縁関係にない場合であっても、被害者と約20年間同棲している場合に身分上の一体性を認めた事例
4) 約3年前から恋愛関係にあり、将来結婚する予定があった場合であっても、身分上の一体性を否定した事例
5) 幼児でない子とその親につき身分上の一体性を肯定した事例
6) 3歳の弟と7歳の兄につき身分上の一体性を認めた事例
7) 被害者とその祖母や叔母につき身分上の一体性を認めた事例
(c) 生活関係上の一体性
1) 家事使用人につき生活関係上の一体性が認められた事例
2) 2時間ほど幼児の子守を頼まれた近所の主婦とその幼児につき、生活関係上の一体性が否定された事例
3) 保育園の保母につき生活関係上の一体性が否定された事例
4) 小学校の教師につき生活関係上の一体性が否定された事例
5) 職場の同僚につき生活関係上の一体性が否定された事例
(ヌ) 被害者側の落ち度と自賠責保険
(a) 自賠責保険と過失相殺
自賠責保険は被害者の保護を目的とする制度ですから、被害者の保護を優先させるため、自賠責保険金の支払にあたっては、被害者が加害者に対して損害賠償を請求する場合と全く同じように被害者側の落ち度が斟酌(過失相殺)されるわけではありません。
(b) 重過失減額
被害者の過失割合が7割未満の場合には、保険金は一切減額されません。
後遺症を除く傷害事故の場合には、被害者に7割以上10割未満の過失がある場合には、全損害額が保険金額に満たない場合には全損害額から、保険金額以上となる場合には保険金額から、また、損害額が20万円未満の場合はその損害額から、減額により20万円以下となる場合は20万円から、2割減額された金額の保険金が支払われます。
後遺症または死亡事故の場合には、被害者に7割以上8割未満の過失がある場合には、全損害額が保険金額に満たない場合は全損害額から、保険金額以上となる場合は保険金額から2割減額された金額の保険金が支払われます。
同じく、後遺症または死亡事故の場合で、被害者に8割以上9割未満の過失がある場合には3割、9割以上10割未満の過失がある場合には5割の減額がなされた保険金が支払われます。
なお、被害者に100%の過失がある場合は、自賠責保険金の支払を受けることができません。